まるで、夢の中にいるみたいだった。
河原にできた大きな水たまりはありえないほど透明で、真っ青な空を映して輝いていた。
そして、そよ風を受けて微かに波打つ水面のあちこちから、親指の先くらいの魚が絶え間なく飛び上がっては、きらり、きらりと銀色の体を煌めかせている。
私はしばらくの間、その光景から目を離すことができなかった。
──ここにしよう。
心の中でそうつぶやいたとき、上空から一つ、また一つと色とりどりのパラグライダーが降りてきて、私は我に返った。
そう、私はそもそも、『仁淀川パラグライダー大会』を見るためにここにやってきたのだった。
仁淀川を見下ろす近隣の山頂付近(石土ノ森など)から飛び立った数十名の参加者が、この河川敷に次々に降り立つ。
空を見上げると、いくつものパラグライダーがゆっくりと旋回していた。
それは壮観な眺めだったけれど、私はそのとき、先日の雨のためにいっときだけ現れた、この水たまりの方に目を奪われていた。
それは、今から11年前のことだ。
私は群馬県に住んでいて、勤めていた木工店から独立して工房を開くための場所を探していた。
住宅街では音や埃が迷惑になるし、どうせなら自然に囲まれた静かな環境でものづくりがしたい。
もともと東京のはずれ、武蔵野の雑木林のそばで育った私は、森や木々の近くで暮らしたいと願っていた。
奥多摩や秩父、千葉県や九州などあちこちを見て回った中で、一番心惹かれたのが高知県だった。
なんと、森林率84%──県の面積のほとんどが、山や森林で占められている。
なんて贅沢な環境だろう!
幸い高知には、何人かの友人がいた。
みんなもともと関東に住んでいたが、高知を気に入って移住した人たちだった。
小学生の子どもがいるために、一度の訪問で2日ほどしか滞在できない私だったが、友人たちは、お気に入りのスポットやイベントを厳選しては案内してくれた。
四万十川沿いに延々と続く、目の覚めるような黄色の、菜の花の群れ。
太平洋の上に突き出した、ガラス張りのレストラン。
神様が造った彫刻作品を思わせるような、神秘と荘厳に満ちた洞窟。
天高くそびえる渓谷沿いの山肌に貼りつくように建てられた、夥しい数の家々。
どこへ行っても、関東とはスケールの違う大自然と、そこに寄り添って暮らす人々の姿があった。
私は飽きることなく、水たまりに跳ねる小魚を眺め続けていた。
──ここに住もう。
私の心はもう決まっていた。
